秘密保持契約書は、フリーランスの契約時にもよく交わされる契約書です。
しっかり目を通していない方も多いかもしれません。
しかし、契約の形式によっては思わぬ形で不利になることがあります。
契約前に必ず目を通して、チェックすべきポイントを押さえておきましょう。
秘密保持契約書のサンプル
まず、どういった契約内容か、そのサンプルを見ることにしましょう。
株式会社▲▲▲(以下「甲」という)と、株式会社◆◆◆(以下「乙」という)とは、●●の制作(以下「本件制作」という)のために甲が乙に開示する甲の秘密事項の取り扱いに関し、次のとおり契約を締結した。
第1条(秘密事項の定義)
本契約において秘密事項とは、甲の保有する甲の技術上、営業上その他甲の業務上の一切の知識および情報で、甲が乙に開示した時点において甲が秘密として取り扱っているものをいう。ただし、次の各号に該当するものを除く。
①乙が甲より開示を受けた時点においてすでに公知となっているもの
②乙が甲より開示を受けた後、公知となったもの
③乙が甲より開示を受ける前に乙が自ら知得し、または正当な権利を有する第三者より正当な手段により入手していたもの第2条(秘密保持義務)
乙は、秘密事項を厳に秘匿し、甲の事前の書面による承諾なく、これを第三者に開示もしくは漏洩してはならない。第3条(使用目的)
乙は、秘密事項を本件制作の目的のためにのみ使用し、その他の目的に使用してはならない。第4条(開示の範囲)
乙は、秘密事項を、本件制作に従事し、かつ当該秘密事項を知る必要のある乙の役員または従業員に限り、必要な範囲内でのみ開示することができる。2 乙は、当該役員または従業員の行為について全責任を負うものとし、かつ当該役員または従業員に対し、本契約上の乙の義務を遵守させなければならない。
3 乙は、前項にもとづき、乙の役員または従業員に対し秘密事項を開示しようとするときは、事前に当該役員または従業員の氏名および当該役員または従業員に開示する秘密事項の範囲を、書面で甲に通知するものとする。甲に通知した事項を変更する場合も同様とする。第5条(複写)
乙は、秘密事項が記載または記録されたすべての文書、図面その他の書類または電磁的、光学的記録媒体を、甲の事前の書面による承諾なく複写してはならない。
2 乙は、本件制作が完了したとき、または中止もしくは中断されたとき、あるいは甲の請求があったときは、ただちに秘密事項が記載または記録されたすべての文書、図面その他の書類もしくは電磁的または光学的記録媒体を、そのすべての写しとともに甲に引き渡さなければならない。第6条(返還)
甲及び乙は、相手方から要求があった場合、当該要求に基づき相手方から開示・提供された本秘密情報につき、速やかに返還又は廃棄等、適当な措置を講じるものとする。
第7条(損害金)
乙の責に帰すべき事由により、秘密情報が漏洩し、これにより開示者に損害を与えたときは、乙は、甲に対して損害の賠償をしなければならない。
2 ただし、乙が本契約上の義務の履行につき懈怠のなかったことを証明したときはこの限りでない。第8条(有効期間)
本契約は、本件制作が完了し、または中止もしくは中断された後といえども10年間は効力を有するものとする。第9条(協議)
本契約に定めのない事項、または本契約の各条項の解釈について疑義が生じたときは、甲乙は誠意をもって協議し、これを定めるものとする。第9条(合意管轄)
本契約に関して紛争が生じた場合には、甲の住所地を管轄する裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
定義された秘密事項の範囲をチェック
その1:秘密とは何か?
第1条(秘密事項の定義)は、どこまでが秘密事項として扱われるかという範囲を示します。
次の指定方法は、先に紹介したサンプルより厳しいものになります。
「本契約において、「秘密情報」とは、文書、口頭その他方法のいかんを問わず、甲が乙に対し開示した一切の情報をいう。」
メール、電話、打ち合わせしたものなど、一切を外に漏らすなという指定方法なので、情報管理をより厳しく管理する必要があります。
他の会社と協力する事も難しくなります。
このような過剰な負担を強いる契約は適切ではありません。
「何が秘密情報にあたるのか。」を限定的に定義してもらうように交渉が必要です。
限定している方法としては、
「相手方から秘密である旨表示した上で、書面(電子メール及びFAXを含む。)又はその他秘密である旨を表示できる媒体によって提供される全てのデータ、その他の事項に関するあらゆる情報。」
と言った書き方があります。
ほか、「秘密情報」を限定する方法としては、マル秘マークなど、秘密であることを明示する方法によることが一般的です。
除外される規定も確認しておきましょう。
その2:禁止される行為
第2条(秘密保持義務)、第3条(使用目的)、第4条(開示の範囲)
は、情報の漏洩を禁止し、使用する目的と範囲を定義しています。
また、第5条(複写)に記載された内容は、PC間でコピーをするのにも許可が必要となってしまいますので交渉が必要と思われる記載内容です。
契約によっては、権利義務の譲渡の禁止という条項が含まれる場合もあります。
「善良なる管理者の注意義務」の規定が盛り込まれることもあります。
その4:損害賠償
責任の範囲を確認します。
「秘密事項が第三者の知るところとなった場合には、乙は甲に対し、損害金として支払うものとする。」
といったものは、どちらの責に帰すべきか書いてないので不利な条項と言えます。
金額が書いてある場合は、法外な値段でないか確認しましょう。
その3:契約の存続期間
第8条(有効期間)
本契約は、本件制作が完了し、または中止もしくは中断された後といえども10年間は効力を有するものとする。
としています。契約期間の終了規定と、義務規定を一定期間継続させる例です。
ほかに、契約の期間に終わりを設けないものや、契約を自動更新契約にするものも見られます。
契約を自動更新させる例としては「本契約の有効期間は契約締結日より1年間とする。但し、契約満了1ヶ月前までに甲乙いずれからも書面による申し入れがない限り、さらに1年間延長するものとし、それ以降も同様とする。」といったものがあります。
その5:その他の条項
上記のサンプルにないものとなると、書式を書いた側に有利な条項である場合が多いでしょう。
私はフリーランスで受けた仕事について、それほど不利な条項が記された契約書を受け取ったことはありません。
しかし、秘密保持契約書は、始めてお仕事をするところと交わされる契約書です。
受領側の立場では、慎重にチェックをして、お仕事にあたりましょう。